はしがき

 平成に入ってからの20年位の間に、知的財産の世界は大きな変動がありました。
 平成6年から平成14年頃までの法改正は、明細書の記載要件の緩和や新規性喪失の例外の拡大など権利取得面で手続のフレンドリー化が進んでいましたが、その後の法改正はシフト補正の制限など手続がシビアになってきたという印象があります。
 権利行使面でも平成14年頃までは、損害賠償に関する逸失利益を認める改正(特許102条1項)、刑事罰の強化、間接侵害規定の拡充など、権利者を強く保護する改正がありました。しかし、平成16年の特許法104条の3制定後は無効の抗弁が常態化したことと、進歩性の判断が非常にシビアになったこともあって、アンチパテントとも云える現象が生じたと感じております。
 本書の4版を発行した2007年前後は、明細書サポート要件に関する知財高裁大合議判決や特許権の消尽論に関する最高裁判決が話題となりましたが、その後も除くクレームの訂正要件に関する知財高裁大合議判決や訂正請求の一部認容を認める最高裁判決など実務に影響の大きい判決がありました。
 また、過度にシビアであるとして問題視されていた進歩性判断についても、平成20年頃からは事後分析的思考を排除する判断が相次ぐなどはっきりした流れの変化があり、より妥当な進歩性判断が行われるようになってきたと感じています。
 そこで、これらの重要判例の動向と、その後の法改正(平成20年改正法と平成23年改正法)をとり込み、改訂したのが、この第5版です。収録した審判決例は平成23年までの判例を追加した結果、298件になります。
 平成23年改正法は施行されたばかりですが、予測できる範囲で実務的解説を試みています。
 なお、本書執筆中の2011年9月、アメリカ改正特許法(リーヒィ・スミス・アメリカ発明法)が成立しました。この改正は先発明主義から先願主義へ転換する画期的なものです。本書にも改正によっても変らないと理解したプラクティスは、そのまま参考として紹介しています。
 初版から数えて、5版を刊行できたこと、読者の皆様方のおかげです。
 誠に感謝にたえません。できましたら、今後とも温かくも厳しいご叱責を頂いて数年後の第6版につなげたいと思っております。

2012年 5月      弁理士 山 内 康 伸

目 次

第1章 社会制度としての特許

1.1 特許の仕組み

1.2 特許の歴史と世界の動き

1.3 産業財産権と知的財産権

1.4 特許と社会との関わり

第2章 特許制度の基礎知識

2.1 特許になる発明

2.1.1 発明とは

2.1.2 特許を受けるための条件

2.2 特許の主体(特許権者となる者)

2.2.1 特許を受ける権利

2.2.2 企業などにおける職務発明

2.3 出願の意義と種類

2.3.1 出願の意義

2.3.2 出願の種類

2.4 特許出願の審査

2.4.1 審査主義

2.4.2 特許出願の受付けから出願公開まで

2.4.3 審査の開始から登録まで

2.4.4 審査で特許されなかった場合の手続

2.4.5 審決取消訴訟

2.4.6 無効審判と関連手続

2.5 特許権の内容

2.5.1 特許権の発生、存続期間、消滅

2.5.2 特許権の効力

2.5.3 独占禁止法による規制

2.5.4 特許表示

2.5.5 特許権の活用

2.6 特許権侵害とその救済

2.6.1 特許権侵害

2.6.2 侵害訴訟

2.7 実用新案

2.7.1 無審査制の趣旨

2.7.2 出願・審査手続の概要

第3章 特許活かす知財戦略

3.1 企業経営と知財戦略

3.1.1 知財戦略についての提言

3.1.2 特許活用の戦略パターン

3.2 出願戦略の立て方

3.2.1 特許の網

3.2.2 周辺特許の確保

3.3 出願方針の決定

3.3.1 権利行使のしやすい出願をする

3.3.2 影響の大きい出願をする

3.3.3 改良発明の扱い

3.4 出願かノウハウか

3.4.1 出願するかノウハウとするか

3.4.2 出願するかノウハウとするかの判断基準

3.4.3 特許が有利なケースとノウハウが有利なケース

3.4.4 ノウハウとして秘匿する場合の対策

3.5 特許か実用新案か

3.5.1 特許か実用新案かの選択

3.6 シリーズ発明の出願

3.6.1 シリーズ発明の出願は1年6ヶ月以内に

3.6.2 国内優先権を利用しての出願は1年以内に

3.7 特許を受ける権利の管理

3.7.1 職務発明の管理

3.7.2 冒認出願等への対処

3.8 実施権の管理

3.8.1 通常実施権の登録

3.9 共同開発のリスクと対策

3.9.1 共同開発の一般的パターン

3.9.2 共同研究開発に係る知財リスク

3.9.3 契約書

第4章 強い特許を取る出願戦術

4.1 発明の把握の仕方

4.1.1 発明者とのインタビュー

4.1.2 発明の理解と抽出

4.1.3 特許性による仕分け

4.1.4 発明の展開

4.2 発明の思想性と出願手続上の関わり

4.2.1 発明の思想性

4.2.2 発明の多面的把握と多項クレームの活用

4.3 明細書の記載ルール

4.3.1 明細書に求められるもの

4.3.2 明細書等の記載のルール

4.4 明細書等の書き方

4.4.1 クレームドラフティングの要領

4.4.2 明細書の書き方

4.4.3 明細書の文章作法

4.4.4 海外出願の予定がある明細書

4.5 判例からみた強い明細書

4.5.1 侵害を追及しやすいクレーム

4.5.2 特許性が高い明細書

4.5.3 解釈上スキのない明細書

4.6 出願前の一般的注意事項

4.6.1 出願前の公表と新規性喪失の例外

4.6.2 特許を受ける権利の承継

4.7 共同出願についての諸問題

4.7.1 特許を受ける権利の帰属

4.7.2 共同出願・共有特許の利害得失

第5章 特許を取得するための手続き

5.1 出願

5.1.1 出願書類

5.1.2 外国語書面出願制度による出願

5.1.3 国際特許出願の国内移行手続

5.2 国内優先出願の活用

5.2.1 国内優先出願の意義

5.2.2 国内優先出願の類型

5.2.3 国内優先出願の取扱い

5.3 出願審査の請求

5.3.1 出願審査の請求

5.3.2 出願審査の請求手続き

5.3.3 審査請求されたときの取扱い

5.3.4 審査請求をするかどうかの判断

5.3.5 実務上の注意事項

5.4 優先審査と早期審査

5.4.1 優先審査の意義

5.4.2 優先審査の申出

5.4.3 早期審査について

5.5 拒絶理由通知に対する応答

5.5.1 拒絶理由通知の検討

5.5.2 対策の立案

5.5.3 明細書等の補正

5.5.4 意見書の作成

5.5.5 分割出願

5.5.6 面接審査

5.5.7 中間書類が権利行使時にどう参酌されるか

5.6 拒絶査定不服審判

5.6.1 拒絶査定

5.6.2 対策の検討

5.6.3 拒絶査定不服審判の請求

5.6.4 明細書の補正

5.6.5 出願の変更

5.7 拒絶審判の取消訴訟

5.7.1 拒絶審決に対する不服申立

5.7.2 審決取消事由

5.7.3 訴の提起

5.7.4 訴訟手続き

5.7.5 判決

5.8 その他の処分の不服申立手段

第6章 特許権の行使

6.1 特許権の効力

6.1.1 特許権の効力の及ぶ範囲

6.1.2 直接侵害、間接侵害、生産物

6.1.3 特許権の消尽

6.2 特許発明の技術的範囲

6.2.1 技術的範囲の解釈の変遷

6.2.2 技術的範囲の解釈

6.2.3 権利者の主張する拡張解釈(均等論)

6.2.4 相手方の主張する限定解釈

6.2.5 無効理由に基づく権利行使の制限

6.2.6 技術的範囲に属するかどうかの判断

6.3 特許権の行使に係る戦略と戦術

6.3.1 特許権の行使に係る戦略と戦術

6.3.2 紛争解決手段の選択

6.3.3 侵害訴訟の概要

6.3.4 仲裁・調停制度の概要

6.3.5 判定制度の概要

6.3.6 知的財産権を侵害する貨物に係る認定手続き

6.4 紛争解決に向けての行動手段

6.4.1 事前の準備と決断

6.4.2 警告と交渉

6.4.3 訴訟戦略の決定

6.4.4 出訴前の段階で行うべきこと

6.4.5 出訴時に行うべきこと

6.4.6 侵害訴訟の追行中に原告側が行うべきこと

6.5 無効審判答弁手続きと訂正請求

6.5.1 無効審判での応答

6.5.2 訂正請求

6.6 訂正審判

6.7 無効審判の審決の取消訴訟

6.7.1 無効審判の審決に対する不服申立て

6.7.2 訴の提起

6.7.3 応訴の手続き

6.7.4 審決取消事由

6.7.5 訴訟手続き

6.7.6 判決

6.8 特許以前の保護

6.8.1 発明完成後、出願公開前の保護

6.8.2 出願公開後の保護

6.9 実用新案の権利行使

6.9.1 実用新案技術評価書制度

6.9.2 実用新案権の権利行使の制限

第7章 紛争の予防と対処

7.1 紛争の未然の防止

7.2 情報提供

7.3 拒絶審決取消訴訟への補助参加

7.4 無効審判の請求

7.4.1 攻撃されたときの対抗手段として

7.4.2 無効審判の準備

7.4.3 証拠方法についての注意事項

7.4.4 無効審判を請求しうる者

7.4.5 無効理由と審判請求の準備

7.4.6 無効審判の請求

7.4.7 弁駁手続き

7.4.8 無効審決とその後の対応

7.4.9 取引きによる解決と審判の取下げ

7.5 無効審判の審決の取消訴訟

7.5.1 無効審判の審決に対する不服申立て

7.5.2 審判取消事由

7.6 特許権の行使を受けたときの対策

7.6.1 特許権の行使を受けて立つには

7.6.2 警告を受けた場合の対策

7.6.3 侵害訴訟を受けて立つ前の準備

7.6.4 応訴するときに行うべきこと

7.6.5 侵害訴訟の追行中に被告側が行うべきこと

7.6.6 侵害訴訟における抗弁

7.7 実用新案権の行使に対して

7.8 仲裁・調停を受けるときの対応

7.9 判定制度による紛争解決への対応

資料・付録

付録1 法改正の概要

付録2 INIDコード

事項索引

判例索引

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