はしがき

本書は、知的財産制度を一応は網羅した概説書であるが、主たる読者には理工系の知財管理担当者、技術者、そして理工系学部の学生を想定しているので、特許制度に主眼をおいている。

筆者は、これまで大学工学部において知的財産制度を講義してきた経験から、実際の発明を紹介しながら話をすると、特許制度の分かりにくい部分に関しても学生諸君が深い興味を示すことを感じている。そして、同様の経験を日常の業務の中で技術者達と対話している中でも感じている。しかし、別の場面では、法律上の解釈や、要請が理解してもらえにくく、それにどう回答するか、苦悩してきたこともある。

そこで本書は、つぎの3点をポイントとした。

第1 実際の発明でシミュレート

実際の発明をモデルにシミュレートする形式で特許のAからZまでを解説した。これにより、理論と乖離のないリアルな理解ができるようにした。

第2 理工系出身者に馴染みやすい解説

法律上の考え方、制度を、技術上のシステムに当て嵌めて解説した。これにより、理工系出身者がイメージとして理解できるようにした。

第3 実務と理論の結びつき

実務がなぜこうなるのか、という疑問を理論との結びつきの中で解説した。これにより、より良い実務ができることを狙っている。

本書の趣旨は以上のとおりであるが、実は本書は、授業用のレジュメに手を加えたものである。実例モデルは学生諸君の前で黒板に書いたものをそのまま使ったが、それだけホットな内容になったのでは、と思っている。5月の連休も含め、数カ月間は、仕事とジムのプールで泳ぐ以外は全てを犠牲にして執筆した。ボリュームはおよそレジュメの2倍になった。

執筆中、脳裏にあったのは、学生の放つ盛んな質問や技術者が持ち込んだ難題である。これが出発点となった点で、彼等には改めて感謝すると共に、本書が彼等の知的財産への理解を深めることになれば、望外の幸せと思っている。

なお、第1章〜第3章および第10章〜第14章は、私、山内康伸が執筆し、第4章〜第9章は私と娘、章子(立命館大学大学院法学研究科修士卒)が協力して執筆したもので、本書は私の20年の弁理士経験と娘の法律知識が融合したものといえる。

平成16年8月20日   山 内 康 伸

目 次

第T部 知的財産制度の基礎

第1章 知的財産権とは

第1節 知的財産権

[1] 知的財産権とは

[2] 知的財産権の全体像

[3] 産業財産権の全体像

第2節 知的財産法の特色と体系

[1] 創造法と標識法

[2] 知的財産の特色

[3] 知的財産法の体系

第3節 知的財産保護の必要性

[1] 知的財産保護の必要性

[2] 知的財産保護の歴史

[3] 我国の知的財産制度と国家戦略

[4] 特許庁と弁理士

第2章 特許(技術の保護制度)

第1節 特許制度の目的と社会的機能

[1] 特許法の目的

第2節 発明とは

2.2.1 発明の定義

[1] 発明の定義

[2] 外国における発明の定義

[3] 発明として成立するものしないもの

2.2.2 発明のカテゴリー

第3節 特許を取得するための要件

2.3.1 特許要件の概要

2.3.2 客体的特許要件

[1] 産業上の利用性

[2] 新規性とは

[3] 進歩性とは

[4] 不特許事由に該当しないこと

[5] 最先の出願であること

[6] 先願明細書に記載された発明と同一の後願でないこと

2.3.3 主体的特許要件

[1] 特許を受ける権利

[2] 企業などにおける職務発明

第4節 特許を取得するための手続

2.4.1 特許出願

[1] 出願の意義

[2] 出願の種類

[3] 出願の手続

2.4.2 出願書類の作成

[1] 願書の記載事項

[2] 明細書等で特許手続の全てが動く

[3] 特許請求の範囲に記載すべき事項

[4] 明細書に記載すべき事項

[5] 明細書の実例

第5節 特許出願の審査・審判・訴訟

2.5.1 特許の審査

[1] 審査主義

[2] 審査手続等のフロー

[3] 設定登録

2.5.2 特許出願の受付から出願公開まで

[1] 出願の受付

[2] 出願公開

2.5.3 審査の開始から特許権の設定登録まで

[1] 出願審査の請求

[2] 審査

2.5.4 審査で特許されなかった場合の手続

[1] 拒絶査定に対する不服申立

[2] 拒絶査定不服審判の手続

2.5.5 審決取消訴訟

[1] 拒絶審決に対する不服申立

[2] 審決取消訴訟の手続

2.5.6 特許権成立後の手続

[1] 無効審判

[2] 訂正審判

[3] 審決取消訴訟

第6節 特許権の効力

2.6.1 特許権の発生と消滅

[1] 特許権の発生と維持

[2] 特許権の存続期間

[3] 特許権の消滅

2.6.2 特許権者の権能

[1] 特許権者の権能

[2] 特許権の効力

[3] 特許権者の自ら実施する権利

[4] 特許権者の他人の実施を排除する権能

[5] 先使用権実施権

2.6.3 独占禁止法による規制

2.6.4 特許表示

第7節 特許権の活用

2.7.1 実施許諾

2.7.2 譲渡

2.7.3 担保

2.7.4 信託

第8節 特許権侵害とその救済

2.8.1 特許権侵害

[1] 特許権侵害

2.8.2 特許権者の請求権

[1] 特許権侵害に対する請求権

[2] 差止請求権

[3] 損害賠償請求権、不当利得返還請求権

[4] 信用回復措置請求権

[5] 刑事責任の追及

2.8.3 侵害訴訟

[1] 侵害訴訟の手続

[2] 裁判所

[3] 侵害訴訟の審理

[4] 侵害訴訟と併行する特許庁での手続

[5] 判決と和解

2.8.4 判定

2.8.5 仲裁・調停手続

第3章 実用新案

第1節 実用新案制度の目的と無審査制

第2節 出願・審査手続の概要

第3節 実用新案権の内容

[1] 実用新案権の効力

[2] 実用新案権の権利行使の制限

[3] 訴訟手続の中止

[4] 登録無効審判

第4章 意匠(デザインの保護制度)

第1節 意匠制度の目的と社会的機能

[1] 意匠法の目的

第2節 意匠登録を受けることができる意匠

[1] 意匠法上の意匠

[2] 意匠登録の要件

第3節 意匠の類似の判断基準

第4節 出願・審査・登録の概要

[1] 出願

[2] 審査

[3] 登録

[4] 不服申立

第5節 意匠権の内容

[1] 存続期間

[2] 意匠権の効力

[3] 意匠権の効力の制限

[4] 意匠権の財産性

第6節 意匠権侵害とその救済

[1] 意匠権侵害

[2] 救済手段

第7節 意匠の特殊な制度

[1] 部分意匠

[2] 組物の意匠

[3] 関連意匠

[4] 秘密意匠

第5章 商標(ブランドの保護制度)

第1節 商標制度の目的と社会的機能

[1] 商標法の目的

[2] 商標の機能

第2節 商標登録を受けることができる商標

[1] 商標法上の商標

[2] 商標登録の要件

第3節 商標の類似の判断基準

[1] 商標の類似判断

[2] 商品・役務の類似判断

第4節 出願・審査・登録の概要

[1] 出願

[2] 出願公開と金銭支払請求権

[3] 審査

[4] 登録

[5] 不服申立

第5節 商標権の内容

[1] 存続期間と更新登録

[2] 商標権の効力

[3] 商標権の財産性

第6節 商標権侵害とその救済

[1] 商標権侵害

[2] 救済手段

第7節 商標法の特殊な制度

[1] 団体商標

[2] 著名商標の保護・防護標章制度

[3] 不使用商標の取消

第6章 産業財産権の国際的保護制度

第1節 国際的保護の基本的枠組み

[1] 特許権等の効力の及ぶ地域

[2] 外国で特許等を取得する場合の国際条約

第2節 外国における特許権の取得

[1] 外国特許の取得

[2] 外国特許庁へ直接出願するケース

[3] 国際特許出願(PCT出願)をするケース

第3節 外国における商標権の取得

[1] 外国商標権の取得

[2] 商標の国際登録出願

第7章 著作権法

第1節 著作権制度の目的

[1] 著作権法の目的

[2] 著作権法上の権利の全体像

第2節 著作物とは

[1] 著作物の意義

[2] 著作物の種類

第3節 著作者の権利

[1] 著作権

[2] 著作者人格権

[3] 著作権(著作財産権)

[4] 著作権の制限

第4節 著作隣接権

[1] 著作隣接権とは

[2] 実演家人格権

[3] 著作隣接権(財産権)の内容

第5節 著作者の権利の保護

[1] 保護期間

[2] 著作権侵害と救済

第6節 登録制度

第8章 不正競争防止法

第1節 不正競争防止法の目的

[1] 不正競争防止法の目的

[2] 不正競争行為とは

第2節 混同表示行為等の禁止

[1] 周知の商品・営業表示等の保護

[2] 著名表示の保護

第3節 商品形態の模倣の禁止

第4節 営業秘密の保護

[1] 営業秘密とは

[2] 営業秘密の保護要件

[3] 営業秘密に関する不正競争行為の類型

第5節 不正競争行為に対する救済

第9章 その他の知的財産法

第1節 半導体集積回路法による回路配置利用権

第2節 種描法による登録品種の育成者権

第3節 関税定率法による輸入禁止

第U部 知的財産の活用の実際

第10章 特許の活用パターンと発明活動のシステム化

[1] 特許の活用パターン

[2] 発明活動のシステム化

第11章 研究開発計画と特許法上の留意事項

[1] 研究開発の進展

[2] 開発計画と出願のタイミング

[3] 共同開発と特許の共有

第12章 発明の手法・研究開発における特許情報の利用

[1] Research と特許情報

[2] パテントマップ

[3] パテントマップの実例

第13章 特許出願に当っての特許法上の留意事項

[1] 早い出願か内容の充実か

[2] 出願前の公表は原則禁止

[3] 新規性喪失の例外

第14章 発明者として知っておくべきこと

第1節 発明者とは

第2節 明細書作成の準備

[1] 発明概要説明書に記載すべき事項

[2] 発明の特許性を高めるために必要な事項

[3] 特許の技術的範囲を広くするために必要な事項

[4] 発明の効果を明確に主張するために必要な事項

第3節 先行技術調査の必要性

第4節 クレームドラフティングの考え方

第5節 論文と特許明細書はどう違うか

clear